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白刃の滝から浮かび上がる
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弥勒達の予測通り、夜が近くなると風の音が強くなった。
夕食が終わると西蔵と不動が長い布のひもを差し出してくる。
「今日はこれで柱に体をつないでおいてください。かなり揺れると思います」
「なんで」
「揺れると体が投げ出されて危険ですから」
メグはひもを受け取ったが、ベッドに放り投げた。
西蔵は何か言いかけたが、不動が肘でつついてそれを止めた。
二人は黙ってまもりが使っていたベッドを分解し始める。
「それはどうするの?」
まもりの問いに不動は手を休めずに答えた。
「こちらは備え付けではないので、揺れると動いてしまう可能性があります」
「まもりはどこで寝るんだよ」
西蔵が布団をまとめて立ち上がる。
「今夜は眠れないと思いますが・・・揺れがない間はこちらのベッドでお休みください」
メグが使っているベッドを示して、一礼をする。
不動は骨組みをかかえて出て行った。西蔵も後に続く。
「そんなに揺れるのかな?」
「さあ。あたしは船のことはわからないよ。あんた、この間の航海はどうだったんだい」
まもりは首を傾げて少し考える。
「うーん、そんなに天気が悪くならなかったし、船もこれよりずっと大きいし、気持ち悪くなるほど揺れなかったから」
メグはベッドに投げ出していた布ひもを拾い上げた。
「まあ、あいつらがあんだけ言うからね。いちおう、腹にくらい巻いとこうか」
「そうね。お腹にまきつけて、先を柱に結んでおこう」

 

「ぐぅっっ」
「だ、大丈夫?メグっ」
「あ、あぁ」
まもりの呼びかけに返事をするのすら辛い。
船が揺れる度に体がベッドから振り落とされそうになる。
必死にベッドヘッドにしがみついているが、指に込める力もなくなってきた。
頭が揺らされすぎたせいで、胃の中にあった夕食がのどの奥からこみ上げる。
精一杯こらえてはいるが、のどの奥に独特の酸味を感じて更に気持ち悪くなる。
まもりは床に滑り落ちて、そのままベッドの足にしがみついている。
柱につないだひもは長く伸びたままで、命綱の役を果たさない。
腹を締め付けている分だけ、苦しさが増している気がするが、もう解く気力もなかった。
ベッドに乗っている体が、船を突き上げる下からの衝撃で上に放り上げられる。
重力によって下に叩きつけられるように落ちたかと思うと、今度は横に大きく傾く。
まだ波に直接さらされている方がましなのではと思うほど、体は左右縦横に大きく引きずられる。
船の揺れに逆らうことはできず、なんとか体を思い通りに踏ん張ろうとすることが返って体力を消耗させていた。
「大丈夫かっ」
まもりではない声が暴風に揺れる船の轟音をかき分けて響く。
「雲水くん!私は平気。でもメグが」
まもりが返事を返している。
「無理もない。この揺れではな」
声が近づいてきたと思った瞬間、メグの体が柔らかく持ち上げられた。
波に押し上げられた衝撃とは違う。
朦朧としている意識をなんとか呼び起こして、薄く目を開ける。
雲水の顔がすぐ近くにあった。
顔を認識すると、自分の足と背中の後ろに雲水の腕が回っているのがわかる。
雲水はベッドにしがみついていたメグを抱え上げて、ベッドに座った。
「は、放せ、よ」
「こうしていれば衝撃が和らぐ。しばらく我慢しろ」
雲水が腕に力を込めた。
メグの体が雲水の胸にしっかりと固定される。
「腕が上がるなら、体に回せ。その方が楽だ」
メグは腕を持ち上げ、言われるままに雲水の背中に回す。
耳に響く心臓の鼓動が、耳を劈いていた轟音をかき消していく。
今まで甲板で波を浴びていたのだろうか、薄い服は濡れて潮の匂いがする。
流れてくるのが海水なのか汗なのかはわからないが、どちらにせよ不快感はなかった。
先ほどまで槍を突き刺すような勢いで持ち上げられ投げ出されていた体が、波が襲ってくる度に力強く抱きしめられ衝撃が和らぐ。
メグも腕に力を込めた。

雲水の体に回した腕が震えているのは、まだ波の衝撃が残っているからだ。
胸に強く顔を押しつけてしまうのは、体を安定させたいからだ。

それじゃあ、潮の香りに交じって感じる雲水の匂いに安心するのは、どうしてなんだろう。

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