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白刃の滝から浮かび上がる
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「メグ、メグ」
名前を呼びながら頬を軽く叩かれる。
ゆっくりと目を開けると、まもりが心配そうな顔で覗き込んでいた。
「どうした…」
「よかった、目が覚めて」
まもりがメグの眼前にあった体をどけたので、視界が広がる。
低い天井が目に入る。立ち上がって手を伸ばせば簡単に届きそうなほど近い。
体を起こして周りを見回すと、黒ずんだ木の板で囲われた狭い部屋だった。
メグが体を横たえていたのはかろうじてベッドのようだが、敷かれている布団は板の感触がわかりそうなほど薄く、手に当たるシーツは織り目の荒い綿のようだ。
メグは起き上がってベッドの中央に腰掛けているまもりの隣に座った。
「ここは…なにが…」
話をしようと口を開くと、鼻の奥に薬品の臭いが残っていて声が詰まる。
「私もさっき気がついたの。たぶん、船の中じゃないかしら」
確かに、体が不安定に揺らめく感覚は乗り物の中のようだ。時折波の音が聞える気がする。
「あの時、薬をかがされて連れ出されたってワケか」
暗闇で背後から回された腕が思い出され、メグは顔をしかめた。
「ごめんなさい、私がついていたのに」
まもりが頭を下げてきたのを肩を掴んで起こさせる。
「やめてくれよ。こっちが巻き込んだ方じゃないか。あたしが高を括ってたのが原因さ。まさかヤツら本気だったとはね…」
シーサーペントに誘拐の脅迫を受けていた自分が、もう少し警戒を強めておくべきだった。
脅しだと決め付けて、他国の皇女を巻き込んだとあっては、今後の外交問題に発展しかねない。
なにより、海賊船でどのような扱いを受けるか。
シーサーペントの残虐な噂を思い出し唇を噛む。
黙ってヤツラの思い通りにされるわけにはいかない。
メグはドレスの裾から左手を入れて、腰の横を探った。
「身体検査はされていないみたいだね」
メグは服の下から手を取り出し、護身用に身につけていたナイフをまもりに見せる。
「ないよりマシだろ。ついて来な」
「ま、待ってメグ」
まもりの制止は聞かず、メグは扉を開けた。
外に見張りはいない。
狭い通路の先には短い階段が上に向かって続いている。
他に部屋もなさそうだ。
メグとまもりはドレスを引きずりながら通路を進み、階段を上る。
階段の突き当たりに取り付けられた扉を頭の上に押し開いた。
潮の香りが強くなり、風が顔に吹き付ける。
ジャマなドレスを片腕で纏めて持ちながら、ひとりずつ順番に外に出た。
メグはドレスを床に広げ、まもりと並んで辺りを見回した。
暗い夜空と真っ黒な海に囲まれている。
船の甲板は思った以上に広く、巨大なマストの下に二人は立っていた。

「探検は終わったか?お姫様」

暗闇から急に声が聞えた。
船の先端に目をやると同時に、甲板の上に備えられていた明かりに火が灯される。
甲板の側面に沿って置かれている明かりの前に黒装束の男たちが並び、メグたちを取り囲んでいた。
メグは左手でまもりの右手を掴んだ。まもりも握り返してくる。

「ようこそ、シーサーペントへ」

船の舳先に置かれた木箱に、髪を一つに結んだ男が大股を開いて腰掛けている。
目元を覆っていた色眼鏡をずらし、メグ達に笑いかけた。
 

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