日が落ちるころ、露峰邸には着飾った人々が続々と集まってきた。
ヒルマ達フレーダー公国海軍は、黒の詰め襟に金のモール飾りを胸に付けた軍服の正装でパーティー会場の一角に整列している。
隣国からやってきた海賊退治のエキスパートを一目見ようという物見遊山な者や、王族とのつながりのためだけに顔を出す者もいる。
招待客たちは遠巻きにヒルマ達を眺めていた。
口元を扇で隠し、ヒソヒソと品定めを繰り返す。
見られることになれていない部下たちに胸を張って厳めしい面で立っていろ、と指示はしたが、ヒルマ自身が若干飽きてきていた。
とはいえ、パーティーは王家から直接保護を求められたと言うことを内外に示す重要な場なので、艦隊を率いるヒルマが率先して抜け出すわけにはいかない。
欠伸をかみ殺しながら、せめて頭の中でこれからの作戦を組み立てている。
来客たちが途切れなく現れていたホールの入り口がゆっくりと閉じられていく。
ヒルマは自然にホールの奥に垂れ下がっている、紫色のベルベットの幕に視線を移した。
ゆっくりと幕が両側に開かれていく。
その動きに合わせるように、人々の間に感嘆のざわめきが広がっていった。
持ち上げられた幕の奥に立っていたのは、赤と青のドレスに身を包んだ美少女二人。
散りばめられた高価な宝石が、シャンデリアの明かりを反射してさらにきらびやかに輝いている。
二人自身が輝きを放っているようだ。
静かに腰を折りながら頭を下げ、ゆったりと元の姿勢に戻る。
まもりがチラリとヒルマに視線を送った。
ヒルマは小さく口の端を持ち上げることで返事をする。
多少剣が使えて頭も回るとはいえ、公国の皇女としてのんびり生活していた者が急に護衛をやれと言われて戸惑わないはずがない。
それでも受けて立つまもりの性分をヒルマは気に入っている。
今回は特に要となる役割だから、彼女以外には任せられなかった。
まもりとメグが中央に進み出ると、取り巻く観衆は大げさなほど二人を褒め称え始めた。
「世界の至宝ですな」
「なんと美しいサファイヤ姫、ルビー姫」
「太陽の輝きはルビーの前にかすみ、雄大な海はサファイヤに焦がれて波を泡立てる…」
三文詩人か、とヒルマは腹の中で笑った。
詰め寄る男たちにまもりは愛想笑いをしているが、肝心の姫君たるメグはにこりともしない。
あれでよく王国の姫が務まっているものだ。
真の王族であるルイとてヒルマとは公には言えないところで知り合いなのだから、彼の従姉妹が姫気味らしからぬ風情でも不思議はないが。
ヒルマは視線をずらしてホールを囲む背丈よりはるかに高いガラスの壁を見た。
中が明るすぎるため、外の闇を映してただの黒い壁に成り果てている。
ついでに自分の後ろに整列して控える仲間たちにも目をやった。
最初はがちがちに固まって突っ立っていた者たちも、場の雰囲気が和んだこともあり、幾分表情が和らいで、肩の力も抜けている。
そろそろ並べられている食事にありつきたいと言い出しそうだ。
船の上での訓練は相当厳しくやっているつもりだが、今後はこのような出稼ぎが増えることを考慮して多少なりともパーティーにおける軍人の所作を教えるべきかもしれない。
船上と違う空間では、気分が弛み安い。
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ああ、カ/イ/ジの一挙放送を録画しておけばよかった(涙)寝なくては…。
コンコンとオークの扉に取り付けられた金具が控えめなノックの音を伝える。
「なんだい?」
メグが返事を返すと、静かに扉が開かれた。
黒い軍服を着て金髪を逆立てた目つきの悪い男と、茶色い髪を肩で切りそろえ真っ赤なドレスに身を包んだ女性が現れた。
「ヒルマ」
「よぉ。糞トカゲ」
金髪の男はルイの知り合いのようだが、仮にも王族に対してずいぶんな口のききようだ。
ルイが気にしていないようだから、メグがとやかく言う気はないが。
「初めまして、露峰メグ様。私はフレーダー公国皇女まもりと申します」
メグの目の前にやってきた女性がドレスの裾を摘み上げて優雅に頭を下げた。
ドレスに合わせてティアラもネックレスもピジョンブラッドのルビーでそろえている。
きつい色合いだが彼女が身につけると清楚に見えるから不思議だ。
「どうも」
メグも格好だけはきちんと頭を下げたが、言葉は普段通りで愛想を忘れていた。
「あんた、「様」はいらないよ。こっちもつけないからさ」
まもりは顔を上げて、うれしそうに笑った。
王族あるまじき言葉遣いは気にならないタイプのようだ。
「ありがとう。そうさせてもらうね、メグ」
「ああ、よろしく、まもり」
握手を交わして、手袋をつけていないまもりの手の平が皇女らしくない固いものであることに気がつく。
ルイの手に似ている。
彼女は険を嗜むのだろうか。
メグの周りの王族よりは気が合いそうだ。
「おい、俺らは打ち合わせしてくるからよ。ちゃんとパーティー出ろよ」
ヒルマと話をしていたルイが、メグたちを振り返る。
「あんたこそ、役目忘れんじゃないよ」
ケッと短く返事をして、ヒルマを伴いルイは部屋を出て行った。
ヒルマは去り際にまもりと視線を交わして行く。
「ルイ王子とメグは婚約してるの?」
ルイの背中を見送っていると、まもりが横からのぞき込んできた。
慣れた質問にメグは肩を竦める。
「…まあ、親はそのつもりみたいだけどね。あたしらは兄妹みたいなもんさ。あんたこそ、あの提督とできてんのかい?」
まもりはその質問が意外だったのか、両手を胸の前で小刻みに振って否定した。
「ううん、そんなんじゃないって。今回は親善で来たわけじゃないだ、私」
「どういう意味だい?」
「メグの護衛なの。狙われてるんでしょ、海賊に」
「護衛?あんたが?王族だろ、あんただって」
「いちおう騎士なんだよ、私」
この細い体に気品ある仕草のまもりが騎士資格まで持っているとは驚いた。
「でも騎士だからって、そんな危ないだろ」
「メグの側にいやすいから、ヒルマくんに頼まれたの。今回の海賊に相当警戒しているみたい」
最前線で戦うわけではない、と言われてメグも少し力を抜く。
「海賊のこと、メグは何か知ってる?」
まもりの問いかけにメグは頷いた。
「『シーサーペント』だろ?根こそぎ荷を奪った上に人夫たちも奴隷にして売り飛ばすらしい。連中が国の海域で暴れ出してから、一気に取引も減ってこの国は貧乏一直線さ」
「シーサーペント…海の怪物ね」
「あたしを誘拐するってのはただの脅しだよ。あいつらは海から上がってきたことがないんだ」
「ヒルマくんたちが、きれいにしてくれるよ。それまで少し窮屈かもしれないけれど」
「あんたもわざわざ悪かったね。とりあえず今夜はぱーっと飲もうじゃないか」
「…パーティーの間は無理じゃない?その後で、どうかな?」
いたずらを思いついたように笑うまもりに、メグも笑い返した。
本当に話がわかる。
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まもりとメグは気が合うと思うんですよね~さっぱり系で。
でも他人の面倒はよく見るし放っておけないから、鈴音や若菜ちゃんや渋谷ちゃんとかとも仲良くしてくれそう。
女の子が仲良くきゃっきゃっしているのはいいですね~。
普段着慣れないドレスと宝石に飾り付けられ、メグは椅子から動く気にならなかった。
濃紺のドレスには布地に溶け込むような青のサファイヤが散りばめられている。
ティアラも首飾りもすべてダイヤに囲まれた大ぶりのサファイヤだった。
ダーク系の色が好きだと言っていたら父親が勝手にそろえたサファイヤだが、指輪に仕立てられた中に稲妻が走ったような模様のあるサファイヤはメグも気に入っている。
窓枠に手をついて外を眺めていた幼なじみのルイは、メグを振り返った。
メグの部屋から見下ろす港には先ほど到着した他国の艦隊が勇壮な景色を作り出している。
「ケッ、他所の連中に助けを求めた情けない国だぜ。歓迎パーティーくらい盛大にやって、威信を見せつけるって魂胆さ、オヤジは」
サラマンド王国を統べる葉柱家の次男は、自国で海賊を取り押さえられないことを腹に据えかねていた。
フレーダー公国に救援を頼むという話がでてから、自分の屋敷には帰らず、父王の妹の家、露峰家に入り浸っていた。
フレーダー公国の海賊討伐軍の歓迎のセレモニーは露峰家で開催されることになっている。
露峰家当主たるメグの父のたっての申し出で、ということになっているが、実際には王宮を使わないのが助けを請うた相手に対するせめてもの威厳だ、ということがルイには更に腹立たしいようだった。
「まったく、私までこんな格好させられるとはね」
「お前は一応姫さんなんだから、それくらいは当たり前じゃねぇか…」
ドレスの脇を摘み上げたメグに、若干あきれ声でルイが返す。
メグが睨みつけるとルイはわざとらしく視線を窓の外に戻した。
メグもサラマンド王国の王族には違いないが、王国の一番先端にあたる港町に居を構え、王国の守護として港を支配してきた露峰家の一人娘は、普段から市井に出て町や船を見回ってきた。
街中にはメグに気安く声をかけ、勝手に警護を買って出る若者も多くいる。
ゴテゴテと飾り立てたドレスなど1年に1度王宮に上がるときにしか着ていなかった。
今日は父親が主催のパーティーで他国の要人を招き、さらに彼らはこれから国を脅かす海賊を退治してくれるというのだから、それなりに礼を尽くさねばならない立場にあることをメグもわかっている。
国王代理をまかされたと愚痴を言いにきたルイに、逆にドレスが重いと愚痴っているのは他にすることがないからだ。
パーティーになれば多少ダンスなり食事なりするだろうが、今は暇すぎる。
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今日は冷えます~!
皆様、風邪にはお気をつけて。
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まもりは重い樫の扉を力を込めて押し開いた。
「ヒルマくんっ」
金髪を逆立てたヒルマは、黒光りする伝統的な装飾が施された机の上に足を投げ出して書類をめくったままこちらを見もしない。
まもりは相手の反応など気にせずに、カツカツとわざと大きな足音を立てて側に寄った。
ヒルマの書類を取り上げ、ようやくこちらを向いた相手を睨みつける。
「セナを連れて行くってどういうこと?危ない航海には連れて行かないっていう約束でしょ」
「糞チビが志願してきたんだからしょうがねぇなぁ?」
語尾の伸ばし方が怪しい。
本当に自分から行くと言ったのなら、どうして船員の発表を見たセナが青くなって震えていたのか。
「ソウダ、心配ならお前も一緒に行ったらドウダ?」
「…何を企んでるの?」
やたらとにこやかな笑顔を振りまいて、片言っぽいしゃべり方をするときは要注意だとよくわかっている。
「トンデモナイ。ただの親切な提案サ」
じーっとヒルマの顔を見るが、笑顔の仮面からは何も読み取れない。
まもりにも何かさせようという魂胆なのはわかるが。
いや、むしろセナがまもりを同行させるためのエサで、ここで「行く」と言えばヒルマの思惑通りになるのかもしれない。
「…何をすればいいの?」
まもりの言葉を聞いて、ヒルマが貼り付けた笑顔を歪め、いつもの人を馬鹿にしたような笑いに変えた。
ムッとするときもあるが、考えの読めない表情よりはずっといい。
ヒルマは椅子から降りるとわざとらしく膝をついて両手を胸で交差させ、まもりに頭を垂れた。
「あちらのお姫様の護衛をしていただきたい。我が公国の勇敢なる騎士姫様」
「お姫様の護衛?」
ヒルマは立ち上がって机の上に投げ出されていた地図を広げた。
まもりたちのフレーダー公国から一つ国を挟んだ先の半島を指し示す。
「要請があったのはサラマンド王国。最近横行する海賊が姫をさらうと脅迫状を送ってきやがった。海賊の討伐と姫の護衛が俺らの仕事だ」
フレーダー公国の悪魔提督として名高いヒルマは、公国臨海の海賊を一掃してしまい、最近では外貨稼ぎのために他国の要請に応じて遠征することが多くなっている。
まもりは公国の王族だが、ヒルマと出会ってから従兄弟のセナが何かと振り回されるのに手を焼いている間にあれよあれよと騎士資格をとってしまっていた。
ヒルマの口車に乗せられたと今はわかっている。
しかし、軍船に乗って航海に出たことはさすがにない。
騎士である以前に、まもりは皇女なのだから当然だ。
「行かなくてもいいぜ。糞チビは新米だからな、まずは寝ずの下働きからさせることになるが…」
「行くわ」
「ケケケ、じゃ、そこの資料たたき込んどけ」
ヒルマはサイドテーブルに積まれている書類を指さしながら部屋を出て行った。
また、乗せられた。
まもりはしぶしぶ書類を手に取る。
やることになったからには徹底的に頭にたたき込む主義だ。
ヒルマの椅子を陣取って、書類を関連別に整理することから始めることにする。
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突然始めたくなりました。
阿雲前提の雲←メグ、ヒルまもで、『キャプテンレッド』のパロディです^^
雲←メグにけっこうご反応をいただけて、いい気になりました!
こちらのブログで書けたから掲載して、後でまとめて作品展示室に移動させます。
URL請求してくださった皆様、ありがとうございます!拍手、コメントも本当にありがとうございます~~~!!
